2010年8月12日木曜日

テラ・プレタの黒い土

オランダの土壌学者、ビム・ソンブルクがまだ駆け出しの研究者だった1950年代、頃、アマゾン川流域を旅し、「テラ・プレタ」と呼ばれる驚くほど豊かで肥沃な土を見つけた。

この地域の土が痩せていることは、生態学の常識だ。

森を切り倒し、焼き払って開墾したとしても、強い日差しや豪雨にさらされ、土壌からは養分やミネラル分が流れ出し、あとには不毛な大地が残る。

1作以上はできず、化学肥料を使っても同じ場所では3作の収穫すらできない。


ところが、この黒色の土は、農業に不向きなはずの熱帯でも毎年、手入れをすることなく、豊かな収穫ができた。


「これと同じような黒い土ができれば、現代の食料問題も改善できるのではないか」

と、この古代から現代にいたるまで全く手入れをせずに豊かな実りをもたらしてくれる不思議な土は、科学者たちの研究の対象となった。


テラ・プレタの研究者のひとりである、バイロイト大学のブルーノ・グレイザー博士は、テラ・プレタ地力は、熱帯であるにもかかわらず、地球上で最も肥沃な大地のひとつだという。

「隣接した土地では、タピオカしか栽培できないのに、テラ・プレタでは、パパイヤやマンゴーなど、数多くの作物を栽培できるのです。豆や穀類の収量も肥えた土地の何倍もあります」

グレイザー博士によると、テラ・プレタには、周囲の土壌より約3倍もの多くの有機物、窒素、リンが含まれていて、それ以上に際立った特徴は、炭の含有量がとても多いことだった。土の色が黒いのは、木炭が入っているからだという。炭素の量が、ほかの土壌よりも40~70倍も多い平均50t/haも含まれていた。

ブラジルの農業研究公社の土壌研究者、ベンセウラウ・テイヘイラもは、普通の熱帯の土壌と違い、強い日差しや豪雨に何百年もさらされているのに、地力が落ちていないことを指摘する。

テイヘイラ氏は、農業公社の施設に、テラ・プレタの土で畑を作って試験を行い、その地力のたくましい回復力に驚いた。

「40年間、コメ、トウモロコシ、キャッサバ、豆などあらゆる作物を栽培してきました。毎年作物を上、土を強い日差しや雨にさらすことは、熱帯では土を破滅させるもので、絶対にやってはいけないことです。それでも、この土はもちこたえました」

と語る。


テラ・プレタはアマゾンの様々な地域で見つかった。見つかる場所は集落跡だった。陶器の破片などが見つかるため、この土壌は、アマゾンに住む高度な文明を持った先住民たちによって、人口的につくりだされたものだということがわかった。


アマゾンに人々が住み始めたのは約1万年前だと言われている。

グレイザー博士は、

「先住民たちは、紀元前4000年も前から、テラ・プレタを作りました。旱魃や豪雨、そして熱帯の暑さを数千年も耐え、今も地力を維持していることは驚くべきことです」

と語る。

アマゾンで3年間研究をおこなってきたコーネル大学土壌生産力管理・土壌生化学部のヨハネス・レーマン博士は、

「この地域では、かつて高い農業技術を持つ文明が存在し、炭を土壌に混ぜて使っていたらしい。今は滅びてしまい、技術も伝えられていないが、土壌は改良された結果、周囲の痩せた土地に比べて農業に適していると見られる」。

テラ・プレタを発見したソンブルグは、、痩せ地を豊かな土地に変える秘密が、テラ・プレタにかくされているのではないかと考え、その謎を解くことで、テラプレタを現代に蘇らせたいと考えていた。

「テラ・プレタ・ノバ(新しいテラプレタ)」

である。

それによって、もともと生産性の低い痩せた土地で、それが貧困の一因となっている土地を、豊かな土地にすることで、最貧国の人々が自給できると信じていた。

ソンブルグは、1966年、テラ・プレタについて報告した研究レポート「アマゾンの土」を出版。貧困解決のために研究を続けるが、その夢の実現を目にすることなく、2003年に死ぬ。

しかし、テラ・プレタは現代に蘇りつつある。

その豊かさと回復力のカギを握るのが、植物や農業廃棄物を低温で炭化してつくるバイオ炭である。

2007年3月。当時ドイツのバイロイト大学のクリストフ・シュタイナーが率いる研究チームは、通常の劣化した熱帯土壌に炭の粉と、木酢液を加えるだけで、微生物が飛躍的に増殖しはじめ、肥沃な土壌を生み出すサイクルが始まると報告した。

シュタイナー氏の試験区では、肥料だけに比べ、土壌に炭を入れた場合、収量が880%も伸びた。

熱帯の土は、農業に利用されると、急速に微生物の数が減る。

しかし、炭を混ぜてあれば、養分が炭に吸着して雨に流されにくくなることもあって、微生物の減少をおさえられるという。

クリーン技術の開発企業、米エプリダ社社長のダニー・デイ氏は、木炭を使って、世界中の地力が低下した地域で土に養分を取り戻せるかもしれないと考えている。

木炭で強化した土壌では、作物の収穫量が200%から300%増加するとデイ氏は予想している。


テラ・プレタは地球温暖化対策にもつながるかもしれないと考えられている。

温室効果ガスの、人為的な排出量の8分の1は、農業で出るといわれている。畑を耕すと、土中に埋もれていた有機物が地表にさらされ、分解される過程で二酸化炭素が放出される。

レーマン博士は、山林や休耕地、畑から出る不要な有機物を炭にするだけで、米国が化石燃料により排出される二酸化炭素の約3分の1を相殺できると推定している。

レーマン博士は、関係者に呼びかけて、2007年には、第1回の国際バイオ炭イニシアティブ(IBI)と名づけた国際学会を開くまでになり、現在でも継続的な活動を行っており、2010年9月には第3回の国際学会をリオで開催する。

国際バイオ炭イニシアティブ
http://www.biochar-international.org/

また、グレイザー博士は、温暖化に対する耐性について、

「私は温暖化に対する抵抗力があると確信しています。なぜならテラ・プレタは、地球上で最も極端な環境につくられたものだからです。アマゾンの典型的な土壌が、地上で最も痩せた土地であることが、この明白な証拠です」

博士はさらに、

「今後の農業は、極端な気候変動、旱魃、豪雨、高温等の課題に対処しなければならなくなるでしょう。人口増加や砂漠化で農地への負担も高まります。テラ・プレタは、こうした課題をや緩和する一助となるでしょう。テラ・プレタは、持続可能な農業のモデルです。砂漠化した土地の農地利用や、炭素固定と地力の維持と増加を通じて、気候変動緩和など、数多くの21世紀の問題を解決できるのです」

と語る。

1 件のコメント:

  1. 日本は現在も炭の文化が息づいている。昔から燃料と共に、土壌改良材として使ってきました。黒炭、白炭、竹炭などがあり、近年では半炭化の優位性が論文などで発表されています。国際バイオ炭のメンバーは炭の歴史のある日本に調査にきました。孝子

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